shinkato vs. the world

日記とかを不定期に書きます。

『野火』

2015/8/14(Fri)@黄金町ジャック&ベティ

 

<スタッフ>
監督:塚本晋也
製作:塚本晋也
原作:大岡昇平
脚本:塚本晋也
撮影:塚本晋也、林啓史
編集:塚本晋也
音楽:石川忠
サウンドエフェクト:北田雅也
サウンドミックス:北田雅也
助監督:林啓史
スチール:天満眞也
制作:斎藤香織、山中亜矢子

 

<キャスト>
塚本晋也:田村一等兵
リリー・フランキー:安田
中村達也:伍長
森優作:永松
中村優子
山本浩司
神高貴宏
入江庸仁
辻岡正人
山内まも留

 

<あらすじ>

日本軍の敗北が濃厚となった第二次世界大戦末期のフィリピン戦線。結核を患った田村一等兵は部隊を追放され、野戦病院へと送られる。しかし、野戦病院では食糧不足を理由に田村の入院を拒絶。再び舞い戻った部隊からも入隊を拒否されてしまう。空腹と孤独と戦いながら、レイテ島の暑さの中をさまよい続ける田村は、かつての仲間たちと再会する。戦場という異常な空間で極限状態に追い込まれた人間たちが描かれる。

 

<作品データ>
 製作年:2014年
 製作国:日本
 配給:海獣シアター
 上映時間:87分
 映倫区分:PG12

 オフィシャルサイト

 

 以上、映画.comより抜粋

予告編。


映画『野火』特報 - YouTube

★(10点)

 

ジャック&ベティでは「ひとりひとりの戦場(ドキュメンタリー)」も上映してました。  

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そして、これは是非ご紹介したい。ロビーに貼ってあった塚本晋也監督のメッセージ。僕の他にも、これをパシャってしてる方が何人かいましたね。オフィシャルサイトの「イントロダクション」でも読むことができますが、こちらにも全文掲載させていただきます。

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【ごあいさつ】

 

 『野火』の監督の塚本です

 

大岡昇平さんが小説にした、第二次世界大戦フィリピン戦線における日本軍の苦しい彷徨いを映画にしました。50年前に市川崑さんがやはりすばらしい映画にしていますが、私の『野火』はそのリメイクではなく、あくまで原作から感じたものを映画にしたものです。初めて読んだのは高校生のときですが、本当の戦場にいるような恐ろしさがあり頭から離れませんでした。

30歳をすぎ本格的に映画にしようと動き始めましたが、規模も大きく中々現実的にはなりませんでした。さらに歳月が流れ、今から10年前に、戦場に行った方々が80歳を越えたときに強い焦りの気持ちが起こりました、その方々のお話だけでも聞いておかなければとインタビューを始めました。しかしそれでも映画化は簡単には進みませんでした。そして、今、実際に戦争の痛みを知る人がいよいよ少なくなるにつれ、また戦争をしようとする動きが起こっているような気がしてなりません。今作らなければもうこの先作るチャンスはないかもしれない。また作るのは今しかないと思い、お金はありませんでしたが、多くの力強い協力を得て完成に至りました。

映画は一定の思想を押し付けるものではありません。感じ方は自由です。しかし、戦争体験者の肉声を体にしみ込ませ反映させたこの映画を、今の若い人をはじめ少しでも多くの方に見てもらい、いろいろなことを感じてもらいたいと思いました。そして議論の場に使っていただけたら幸いです。

塚本晋也

 

この文章を読んだだけでも塚本晋也監督の並々ならぬ作品にかける意欲が伝わってきますよね。

終戦から70年が経ち、戦争の経験者が少なくなっていく中、それでも戦争の悲惨さを色々な形で伝えていく必要があるわけですが、そのあらゆる伝達手段の中でこの『野火』は最も直接的に「戦争の恐怖」を感じることが出来る作品になっているのではと思いました。本当に、強烈な映像が87分間続きます。

 

田村を体験する

塚本晋也監督自らが演じる田村一等兵は、戦場で肺を患い部隊を追放され、野戦病院へと送られる。しかし、野戦病院では食糧不足を理由に田村の入院を拒絶。再び舞い戻った部隊からも入隊を拒否されてしまう。この八方塞がり状態はこの時の敗戦濃厚の日本を象徴しているのでしょうか。

塚本監督はインタビューで「なるべく今のものとして体験としてみてもらえるように、設定の説明はしなかった」と話しておりますがその効果は抜群に出ています。加えて、戦争に参加する前は物書きをしていた主人公田村は、体は戦争に参加しているが心はしていない。極限状態となっていく自身と周囲をどこか俯瞰で見ている気がします。少なくても序盤は。つまり田村は私たち観客の目線に最も近い存在なのです。彼自身の状況や周囲の人々の描写は目を背けたくなるが、決して背けることが出来ない、終始そんな緊張感に溢れています。

私達に最も近い存在だった田村が戦争によってどう変わっていったか。この映画はこれに尽きます。

 

リアクションとるべき作品

塚本監督の「議論の場に使っていただけたら幸いです」という言葉。ここで言ってる「議論」とは、映画の出来がどうこうという議論ではもちろんなく、「戦争」をテーマにした議論でしょう。この「議論」を更に噛み砕くと「作品の向こう側にある問いかけに対し、じゃあ私たちはどうあるべきなのかを話し合って模索する」ということだと思いますが、つまりは塚本監督はこの作品が戦争のことを話し合う「キッカケ」になることを期待してるわけです。実際この作品は、物語的なノイズは完全に排除されており、戦争とはどんなものなのか、ただそれだけを伝える作品になっており、塚本監督が期待する役割は十分に果たし得るでしょう。

気になることは、実際に戦線を経験した人がこれを観たらどう思うのだろうか?ということです。とあるアメリカの戦争経験者は『プライベート・ライアン』を観た時、戦争シーンのリアルさに「臭いがあればこれは本物の戦争だ」と言ったそう。僕の主観ですがその『プライベート~』をあらゆる意味で凌ぐこの作品を、年齢を重ねて決して積極的に思い出したくはないであろう日本の戦争経験者の方々が観ることは簡単なことではないでしょうが、もし、そういう場があるなら、『野火』を観た時に何を思ったのか知りたいです。

1年に1回、夏に戦争のことを考えてみるという今の日本の空気の中、そのタイミングで映画が好きな方なら是非今年は『野火』を観て欲しいですね。まあ本当は映画好きとか関係なくたくさんの人が観るべき作品だと思いますし、とにかく各メディアで大きくこの作品を取り上げるべきだと思います! 

 

<参考>

 

野火 (新潮文庫)

野火 (新潮文庫)

 

 

TBSラジオ「Session22」 塚本晋也監督インタビュー

 http://podcast.tbsradio.jp/ss954/files/20150817fukuro.mp3

 

www.htv-net.ne.jp