『海街Diary』
2015/6/14(Sun)@TOHOシネマズららぽーと横浜
<スタッフ>
監督:是枝裕和原作:吉田秋生
脚本:是枝裕和
製作:石原隆、都築伸一郎
<キャスト>
綾瀬はるか(香田幸)
長澤まさみ(香田佳乃)
夏帆(香田千佳)
広瀬すず(浅野すず)
加瀬亮(坂下美海)<公式サイト>
<あらすじ>
湘南を舞台に、異母妹を迎えて4人となった姉妹の共同生活を通し、家族の絆を描く。鎌倉に暮らす長女・幸、次女・佳乃、三女・千佳の香田家3姉妹のもとに、15年前に家を出ていった父の訃報が届く。葬儀に出席するため山形へ赴いた3人は、そこで異母妹となる14歳の少女すずと対面。父が亡くなり身寄りのいなくなってしまったすずだが、葬儀の場でも毅然と立ち振る舞い、そんな彼女の姿を見た幸は、すずに鎌倉で一緒に暮らそうと提案する。その申し出を受けたすずは、香田家の四女として、鎌倉で新たな生活を始める。(映画.comより抜粋)
予告篇。こんな奇跡的な姉妹でリアリティ出せますかね。
★★★★★★★★★★(10点)
150%世界に誇れますよね。こういう感じで作れる映画作家って世界を見渡してどれだけいるんでしょうか。難しいことを語るつもりは全くないです(語れないし)。ただただ美しい四姉妹が映ってるってだけの映画です。最高でした!
「漫画原作の映画化は・・・」問題
漫画と映画は別物
まず、漫画原作の映画化って難しいと言われてますよね。何で失敗しちゃうんでしょうか。考えられる要因の一つとして<「忠実」の名のもとに原作のセリフをそのまま演者に言わせちゃうことで生まれる違和感>っていうのがあると思います。漫画は、「動いているもの」を止まった形でキリトリ表現しなければならないですよね。それをあたかも動いているかのように読者にイメージしてもらうために「言葉」で補う、読者は「漫画」として読んでるからそこに違和感は無い、と解釈すると、映像に漫画のセリフをそのまま充てると回りくどくなるのは必然の気がします。つまりこの問題は、映像化する監督が物語の本質だったり空気感を理解してセリフを書きなおせばクリア出来るのではないでしょうか。一概には言えませんが、少なくとも『海街diary』ファンは間違いなく忠実なセリフではなく、作品が持つ空気感を映像に求めてるでしょう。
原作と映画の比較
鑑賞後、コンビニに原作が売ってたので買って読んでみました。序盤、父親の葬式で山形を訪れるエピソードを原作と映画で比較してみると、映画の方のセリフは大幅に抑えてられてましたね。「単純に削る」パターンと、「言葉ではなく表情だったりカメラワークで観る人に気付かせる」パターン、両方あったと思います。それでもストーリーの本質にブレはなかったです。つまり泣いちゃいます。序盤なのに(笑)。幸がすずへ「ありがとう。あなたがお父さんのお世話をしてくれたんでしょう?」っていうシーンと、(この時はまだ)三姉妹との別れ際、駅のホームに立つすずが意を決して「行きます!」ってシーン、そこには原作、映画ともに寸分狂わない感動があるわけです。
是枝監督の「空気」作り
浅野すず役の広瀬すず(名前の一致は偶然だそうです)は、「その場で生まれるものを大事にしたい」という理由から台本なしで現場に臨んだそうです。これはシーンの自然さを作り出すために是枝監督がよくやる手法で、監督が台本ありパターンと無しパターンどっちにするか広瀬すずに選択させたとのこと。台本なしで演じることによって、自然で生き生きとした言葉や表情が存分に出ていて、その出で立ちはまさに「浅野すず」そのもの。鑑賞後、ほとんどの人が「彼女(広瀬すず)以外(浅野)すずはあり得ない」と思うでしょう。
「是枝監督のキャスティング」という視点では、記憶に新しい『そして父になる』の福山雅治も素晴らしかった。福山雅治の完全主義的なパブリックイメージと、物語の中で浮いていてエリート故にどこか鼻につくという良太役とがリンクし、観ている人が映画に入り込む後押しをするんですよね。役者がもともと持ち得るキャラクターをストレートに演じてもらう(引き出す)ことで、結果ハマリ役になっているっていう。
でも、広瀬すずとは違い、福山雅治には台本はあったと思いますね。つまり是枝監督は思い描く作品の「空気」を作り上げる為に、役者にとって最善と思われるプロセスを、臨機応変にしかけているのでしょう。これが是枝作品の特徴「ドキュメンタリー性」に繋がってるのではないでしょうか。
リアリティ、作り込みの融合
鎌倉での四姉妹の生活は「(時にはエグいくらいの)リアリティ」と「映画的な美しさ」を持ち合わせながら進んでいきます。
次女・佳乃を演じる長澤まさみのビッチ感(褒め言葉です)は「こういう子、いなさそうでいるわー。いやいそうでいないかー。」とか思いましたね。まあ好きになっちゃうでしょう(笑)。気持ち良い食いっぷりと、カマドウマの真似に代表される表現の瞬発力を持つ三女・千佳を演じる夏帆。それぞれの個性が出ていてほんと素敵なのですが、中でも長女の幸を演じる綾瀬はるかにはハッとさせられました。過去作からの彼女の印象はいわゆる天然コメディ女優でしたが、今回は厳格な長女(家族の中の母役)として、抑制の効いた演技をしていて、これは新境地と言えるでしょう。ただ厳しいだけではなく、すずとの触れ合いによって生まれてくる母性、そして家族には内緒の秘密を持つ女性としての側面。性別を超えて、深く感情移入してしまいました。長澤まさみとのコントラストが鮮やかでお互いが輝いてましたよ。普段の生活では滅多にない(と思われる)2人きりで話すシーンはさながら浅野家首脳会談と呼びたくなる、相当男前なシーンでしたね。
「映画的な美しさ」はこの映画の特徴として外すわけにはいかないです。ある日の夜、すずが姉たちとひと悶着おこしたあと、話し合い、家族として一歩前進したときにニ階の窓から四姉妹が梅の木を見つめるというシーン。ここも数あるハイライトのひとつで、人によっては、この映画を思い出したときに一番先に浮かぶシーンでしょう。何故か涙が出ます。以下、是枝監督のインタビュー抜粋します。
「四姉妹の佇まいは、凛として、背筋が伸びていてドキュメント的に撮るよりもきっちりと一枚の風景の中でとらえていく方がいい。」
「例えば、香田家の2階の窓から四人で梅の木を見つめるシーンは、自然にはあんな風に四人は並びません。四人をどう動かしてどう撮るかということを考えて、きちんと配置して撮ってます。」 (劇場プログラムより抜粋)
そうなんです。ここは「自然な立ち振る舞い」よりも「絵の美しさ」をとるんですよね・・・。このバランス感覚が神がかってます。
「日常」に圧倒されます
四姉妹の周りを取り囲む魅力的な登場人物たちや「笑い」の側面にも触れたいですが、書いてて疲れてきたし、観ていただいた方が早いのでもういいか。
幸が「母」になり、すずが「妹」になりそして四人が「家族」になる物語。図らずも『そして父になる』のタイトルが連想されますよね。原作の「美しさ」を踏襲しつつ、是枝作品の文脈を正当に継承している。紛れもないの新たな傑作です。最後に合わせて観てほしい是枝作品をあげておきます。この3作品と今回の『海街diary』、そして私たちの日常が地続きで繋がっていると思うと、毎日がそんなにつまらないわけではないな、と思うわけです!
ライムス宇多丸師匠曰く「ハードコア・ホームドラマ」。これをオールタイムベストとする人、数知れずです。
これまた素晴らしいんですよ・・・。『海街diary』出演の前田旺志郎くんのエピソードゼロとして観ることもできますね。
そして言わずと知れたこれ。福山雅治がこの撮影で得た「抑え」の演技は、その後撮影された『真夏の方程式』で決定的なものとなる。
原作。吉田秋生さんは映画を観て「ちょっぴり、くやしかった」というコメントを寄せてます。
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- 作者: 吉田秋生
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